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2026/07/26
[#]ベトナム奇行備忘録[1] 寝台車の食を牛耳るホスピタリティウーマン

 2026.7.26〜8.3

9日間のベトナム横断旅。旅行記は同行のイスクラさんが書いてZINEにしてくれるので、わたしは備忘録だけに留めておく。時系列は多分バラバラです。

メンバーは、フードカメラマンイスクラ、陶芸家esou ceramics菊川、そして途中離脱した友人の克子。(ちなみに写真はほぼほぼイスクラさん撮影によるもの)

ベトナム着後、一番最初に入った店はバインミー(フランスパンサンドイッチ・ベトナム国民的な軽食)専門店。わたしがオーダーしたのは目玉焼き2コ入りだったのだが、なんとひとつも入ってなかった。にも関わらず、わたしの恨み節がそこまで強くなかったのは、あまりにも旨いオレンジジュースで相殺されたからだろう。果実をギュッと絞った感があり、濃厚だ。そして甘い←ここ重要。

テーブルに置かれていた醤油みたいな調味料をバインミーにかけたらこれもまたすこぶる旨い。コクがあり、少し甘めでうまみがある。黒猫のロゴが入っていた。その後スーパーに行って同じ醤油を購入。それからというもの、旅行中はずっとこの黒猫ボトルを持ち歩き、あらゆる料理にかけて食べることとなった。ちなみにこの旅で食べたバインミーの数は20コ。バインミー旅と言っても過言ではない。

●狂気のピンクハウス

わたしが『狂ったピンクハウス』と名付けたホーチミンのカフェは、Rose Villa Saigonという施設だった。イスクラさんのTwitterによると、その昔会員制クラブだったところで、今は宿泊可能な高級パーティ会場とのこと。

こ、高級!? たしかに豪華絢爛っぽさはあるものの、とにかくドぎついピンクだらけですべてが嘘くさい。とはいえインスタ映えには最高の施設だろう。ホーチミンを訪れた際にはアミューズメントパークとして一度は行っておいてもいいかもしれない。狂ってるので。わたしもインスタライブをしてしまうほど脳がヤられてしまった。今チェックしてみたらInstagramもある。カメラマン撮影なのか、いい感じの写真がアップされていた。ちなみにオーダーしたストロベリーバナナスムージーはとてもおいしかったけど、乗っかっていた食用花までフェイクくさく感じて不気味で食べなかった。小汚い屋台や露天、市場の食べ物は何の躊躇もなく食べられたのに。

●寝台車の食を牛耳るホスピタリティウーマン

ベトナム統一鉄道の寝台列車に乗りサイゴンからフエへ。ここでもまたオレンジジュースがすこぶるおいしい。車内販売にあるまじき旨さ。東京で1,700円くらい出してもわたしは満足するだろう。もしかしてベトナムはオレンジジュース天国なのではなかろうか。それからしばらくは、どこに行ってもオレンジジュースばかり注文していた。数日後もまた同じ鉄道の寝台列車に乗ったので、喜び勇んでオレンジジュースを買ったものの、驚くべきことにフツーのペットボトルで出てきた。ベトナム各所のコンビニでもよく目にしたOranginaだ。味も薄く果実感もゼロ。こりゃまったくちがう飲み物だ。「はぁ?」楽しみにしていただけに無念さがハンパない。同じ列車なのにいったいなぜ……? そこで我々は推理した。

結論。初回の寝台車、車内販売兼食堂車の女性の計らいにより、彼女が家で仕込んだ自家製オレンジジュース&コーヒーを持ってきていた。(と推測)

プロフェッショナル:証拠1

「『ワゴン』を撮影させてください」と申し出たにも関わらず、いきなりものすごい古典的なポーズと表情でキメてくれた。ここからしてサービス精神の塊であった。

プロフェッショナル:証拠2

食堂車に行くと、件の女性がシャキシャキと働いていた。食事オーダー中に「みんなジュースよね?」という感じで全員がほぼほぼ強制的にオレンジジュースになる。そのあと車内の様子を撮ろうとスマホを構えたら、有無を言わさぬスピーディーな動きでスマホをむしり取られ、必殺仕事人のような顔で我々4人を何枚も撮影してくれた。食堂車は自由撮影禁止のようだ。過去に何かトラブルでもあったのだろう、他乗客の写り込みを断固阻止する姿勢を感じた。

プロフェッショナル:決定打になった動かぬ証拠3

「なぜ同じ列車でありながらオレンジジュースの質がてんで違うのか?」その謎を解明すべく、わたしたちは初回寝台車の画像を漁った。そこにあったのである。動かぬ証拠が。

初回、女性はペットボトルに入ったオレンジジュースを氷の入ったプラカップに注ぎストローをさして渡してくれた。これは食堂車でも車内販売でも同じだった。その時の写真をよくよく見ると、ジュースが入っているのはふつうのミネラルウォーターのペットボトルではないか! よりおいしいオレンジジュースを乗客に提供しようと、女性が家で仕込んできたに違いないという結論になった。ちなみにコーヒーも、1度目と2度目の列車では作り方も味もちがっていたとのこと。日本でこんな自由な振る舞いは衛生上の観点からも許されないかもしれないが、ここはベトナム。さすが生肉の塊や鮮魚を路上で売っているだけのことはある。究極のホスピタリティだ。本当に思い出すだけで口の中がじわっとするほどおいしいオレンジジュースだった。

●菊川女史によるただならぬ警戒心 その1

イスクラ・菊川両者は、旅慣れており年に数回海外旅に行っている。そこで痛い目にあっているのか、とくに菊川女史の海外における防衛本能がハンパない。よくいえばリスクマネジメント、悪くいえば被害妄想に近いものがあり、呑気なわたしからするとその過剰なる警戒心は一種の珍獣を観察しているようでとても面白おかしかった。本人にしてみればなかなか大変なこったろう。

これもまた2度目の寝台車でのこと。車内販売にきた若いお兄ちゃんからコーヒー3杯オーダーして飲み始めたところ、「ちょっと待って……?」と、支払った額が3で割り切れないと言い出した。たしかに割り切れる数字ではなかったものの、大した額でもないし小さな計算ミスということもあり得る。けれどもこの件で、「ぼったくられた」という確信に満ちてしまった菊川女史に火がついた。

寝台の車内販売は何度もくる。ワゴンに乗せてくる時もあれば、果物のみをレジ袋にいれて販売することもある。バインミーやドリンク、フォーなどさまざまだ。ドアをノックして開けてきたり、あるいは大声で知らせてきたり。次に例の『3で割り切れないお兄ちゃん』がきた時には、ワゴンが2台渋滞になっていた。わたしが何か買おうとしたその瞬間、菊川さんが「このお兄ちゃんちょろまかすから! (他の人から買ってー)」と大声で言い出した。笑ちゃったけど、相手に日本語が通じなくてよかった……とも思った。

●菊川女史によるただならぬ警戒心 その2

この日本語での警戒語がプラスになった事例もある。どこかの駅で、手荷物一時預かり所を探していた時のこと。駅の端にドアが開きっぱで開放的な警備室のようなものがあり、無人だったけれど大きなテーブルに灰皿が置いてある。「ここじゃん?」などと覗いていたら、車から降りてきたおじさんが手を上げながら何やら叫んでいる。「おいおい! 俺が警備員を呼んでやるよ!」的なことを言っているようだ。すかさず菊川さんの警戒センサーが働き「このおじさんはヤバい。このあとタクシーに乗せられてぼったくられるかも!」などと言い出すや否や『タクシー』に反応したらしきおじさんは「タクシーじゃないよ、これ俺の車だよ! ここの職員だよ!」などと言いながら部屋の中の集合写真を指さしている。たしかに制服を着ているご本人がニッコリ笑って映っていた。実際は非番だったこのおじさん、交代の人に連絡をとってくれて無事荷物を預けることができた。

こちらは呼ばれたおじさん、気のいい親切な二人だった。集合写真が見えますね? ここで"ぼったくりタクシー“に間違えられたおじさんが笑顔で映っております。

●菊川女史によるただならぬ警戒心 その3

女史のリスクマネジメントは人間だけにとどまらない。冷蔵庫さながらのパワフルエアコンで効きすぎた車内でも絶対に布団をかぶろうとしないのは、トコジラミを警戒してのことらしい。最初の寝台も寒かったけど、2回目はもっとひどく凍死するかもしれないと思った。

こんな対策を試みたくらいだ。

これは最初の寝台車。下がわたしで上が菊川女史。ぜったいに布団を被らない気骨ある寝姿。

そいえば、彼女が探してくれて行った路上の食事屋さんでも警戒心は発揮された。とてもおいしいうえに雰囲気も店の人もすこぶる良く、何より犬がいる。しばらくその空気感を味わっていたかったのだが、いつもはゆっくりのんびりしている菊川さんが食後に即立ち上がり、「早くここから去りましょう!」と言い出した。どうやら席の隣に木々が生い茂っていて、蚊がいる可能性がある=デング熱の危機ということらしい。

絶品のホイアンチキンライス。あーーーーおいしかったなあ。店は家族経営で、お客さんも地元の人しかいなかった。食事を運んでくれるお兄ちゃんが煙草を吸いに少しだけ離れた場所に行ったら、犬も一緒に着いていき、うれしそうに尻尾を振って彼を見上げていた。自分的には、今回一番異国を体感できた夢のような空間だった。

まだまだベトナム備忘録&菊川女史によるただならぬ警戒心シリーズは続きます。ひとまず、ここまで。



#7/26/2026 07:43:00 午後 このエントリーをはてなブックマークに追加



2026/07/19
[#]伊豆(マリ絵)奇行

 

2026.3.12

【伊豆旅 登場人物】H(同級生 こだわりゼロ)、マリ絵(友人 真面目)、克子(友人 寛容)。

本来、もう一人同級生のSが行くはずだったが、当日不幸があり急遽キャンセル。途中から克子が参加してくれることとなった。

____________

2026年春に伊豆に行った。奇行も含めた紀行である。

車旅の楽しみのひとつにサービスエリアがある。平日だというのに人が溢れていて、ホントに景気悪いのか? と言いながらうどんをすする。SAといえばうどんか蕎麦! そのはずだが、スカしたカフェやパン屋、屋台もやたら多く、そのどれもが高い。うっかり小洒落りんご飴(800円)を買ってしまうところだった。出だしからしてあぶなかった。

柑橘類好きのマリ絵はその類の木を見つけることと、落ちた実を見つけることに長けていた。次々に発見してはわたしたちに報告するのだけど、すべてを『みかん』と言い張るので混乱きわまりない。「広義でみかんです」と言い張っていたがそれも聞き飽きた。あれほど柑橘類が好きなのに、慎重すぎて最後の最後まで広義のみかんは買わなかったので本当に好きなのか疑わしい。

途中で神社に寄ったら、意外なほど若い女子たちが多い。インスタ映えしそうな場所で必死に撮影している。どうやら縁結びで有名どころらしい。我々も一応独身ですからねぇせっかくだから記念に撮ってみますか……的にハート型の茅の輪から顔を出して写真を撮った。必死さは隠し通せたと思う。ところが神社も必死と見えて、いたるところにハート型がある。あと、北条政子が頼朝の菩提を弔うために自らの頭髪で刺繍したといわれる曼荼羅があるらしい。真相は知らないけど髪の毛とかたぶんウソだと思う。

↑こんなところもハート!

旅館着。目の前が漁港で、わたしがこの世で一番好きなゲーム『ぼくのなつやすみ』みたいだった。宿についてすぐに、裏手にある急勾配の坂が多い集落を探索。朽ちた玄関や窓、破れ放題の障子やカーテン、荒れた庭先に錆びた水道管、ほとんどが空き家で、なぜか猿の惑星(シリーズ最初)のエンディングを思い出した。

釣宿や民宿の跡地も多くかつては賑わっていたんだろう。どこからでも海が見える。ここで生まれて育ち、都会へ巣立っていった子供たちがうらやましい。故郷がこの風景だもんな。隣の芝は青く、遠くの海もまた青く澄みわたる。

夜には何度か煙草を吸いにHと外に出て、この漁港を眺めていた。星もたくさん見える。Hとは国内外問わず数えきれないくらい旅行をしているけれど、修学旅行中、長崎の山奥にある宿舎からみんなで見た夜空は記憶に残る満点の星だった。あれは忘れられない。あまりにも星が多いと、黒い幕か紙に小さな穴が空いていて向こうの光がこちらに入ってくるような錯覚に陥る。すぐそこにあって掴めるような気もするので思わず手を伸ばしてしまう。流星も飛びまくっていた。あまりにも多くすばやく消えていくので願い事も追いつかず、紙に書いて空にかざす(星に見せる)という技まで編み出した。我も我もとこぞってマネされたので星に注目してもらうためには誰よりも高く掲げなければならない。もみくちゃになりベランダから身を乗り出して紙を空に向ける高校生たち。暴動が起きる寸前だった。通行人に目撃されていたら、何かの宗教のようできっと恐怖を感じただろう。

翌日、マリ絵が歩いて爪木崎灯台に行くと言い出した。崖っぷちの遊歩道で1時間くらいかかるとGoogleが言っている。わたしとHは高齢者ですので速やかに辞退しまして、一人で行ってこい、灯台まで車で迎えに行ってやるということになった。

歩いて灯台に行くのがよほどうれしいのか、マリ絵は会計をしているときに宿の大将に「これから灯台まで歩いて行くのです」と報告していた。そしたらオヤジは「え……? いやいや歩いてじゃムリですよ」と言う。「でも徒歩5,60分くらいで行けると書いてありました」「歩くんですか? はあ……そうですか……大丈夫ですかぁ……」とオヤジはあきらかに困惑の表情を浮かべており、張り切っているマリ絵とのギャップが凄まじい。すかさず「わたしたちは車で行きます。歩くのはこの人だけです」と伝えてわたしの賢者ぶりをアピールした。

遊歩道とはこゆやつ。

宿をあとにして駐車場で荷物を積んでいたら、大将がこちらにむかって何やら大声で叫んでいる。聞けば今日、遊歩道で工事をやっていて途中から通行止めになっているとのこと。往生際が悪いマリ絵はスマホでいろいろ調べだして「ほんとだ……書いてある……」と、心底無念そうな顔をして車に乗り込んできた。

灯台に向かっている車中でも、柑橘類木々のチェックをおろそかにしてまだ通行止めについて色々調べている。あのまま遊歩道を歩いて行ったら40分後くらいに工事現場があり、そこから引き返すことになっていたという。大将に教えてもらわなければ、過去旅の中でもトップ5に入るほどの面白エピソードになっていたにちがいない。海だしLINEさえ繋がらなかった可能性もある。マリ絵的には幸いだが、わたしとしては惜しいことをした。それを言うとマリ絵はいきなり大将とおかみさんのやりとり(妄想)を後部座席で演じ始めた。

おかみさんに「さっきのお客さん、歩いて灯台に行くんだってさ、大変だよな」という大将。「え? 今日は確か工事をやってたはずだけど?」「なんだって?」「ほら、ここに書いてある。ムリよ、早く伝えにいったほうがいいよ」「そりゃ大変だ! まだいるかな?」「早く早くっ!」と、これを1人で声色を変えつつ演じている。小芝居にもほどがある。マリ絵劇場だ。

そのあとも「わたし……『こんなに海が好きなのにどうして海の近くに住んでいないんだろう……』って思うよね?」と言い出して、我々は5秒くらい沈黙のあと「よね? と言われましても……」「どういう反応をすれば……?」と返した。本当にどういう返答をしたらよかったのかいまだにわからない。直後に喘息になるくらい爆笑したのだけど、もしかして笑かそうと思ったのか?

灯台のある場所は、爪木崎花園と共同のためか駐車場はやたら広かった。受付のおじさんに「今日は風が強いから気をつけて」と言われて覚悟したにも関わらず、ドアを開けたら強風を通り越して暴風だった。そしてメチャクチャ寒い。ここまでわたしはずっと、北海道で買った、ふとんのようなダウンジャケットを持ってきたことを心底後悔し、「ダウンなんて持ってこなければよかった……こんな分厚いやつを……」と、ことあるごとにウジウジ愚痴を言っていたのだけど、ここで初めて「持ってきてよかったあああああああああああ」となったので不幸中の幸いである。

いよいよ灯台が見えてきた。けど小さい。つまり遠い。ここから歩いて20分くらいはかかりそうだ。舗装されていて階段もあるとはいえ、この暴風に立ち向かう勇気はまるっきりない。 そもそも灯台の下に行って何があるというのか。上れるわけでもないらしいし。ここ駐車場と同じ、伊豆のだだっ広い海が見えるだけじゃないか。マリ絵だけが灯台の真下に行く気満々で張りきっているので、見届けてやると言って送り出した。「ご武運を……」と彼女の背中に手を合わせて祈りつつ、わたしとHはとっとと踵を返して風を凌げる場所を必死に探した。わりと命がけの形相だったと思う。

また不幸中の幸いが起きた。亜熱帯植物観賞用の温室があったのだ。冬山での遭難時、明かりのついた家を見つけた瞬間の気持ちというのはこういうものではないだろうか。誰もいなかったので「わーーっ! 天国だ〜!」と叫ぶ。じっさいの天国は見たことないし行くこともないだろうから知らないけれど、ジャングルのような木々に囲まれた、湿度が異常に高い無風空間は今、紛れもなくわたしたちの天国になった。

温室設立者という名の神に感謝と敬意を証明するために、一応グルッと鑑賞してみる。2周くらいしたかもしれない。そしたらどちらからともなく「ちょっと煙草吸いに出ようか……」ということになった。正直、天国に飽きたのだ。人間はなんと愚かな生き物だろう。「ひょえええええええーーっ」と奇声を発しながら扉を開けて暴風に立ち向かう。人間が愚かというか、ただわたしたちがバカなだけかもしれない。

風が避けられて煙草が吸えるところ。そこは大きなゴミ箱の裏しかなかった。それでもなんとか火がつくくらいで無風なわけではない。「わたしはたちはいったいなぜこんな思いまでしてゴミ箱のウラで煙草を……?」と思うと笑えてきた。みなさんにはわからないでしょう、そこまで吸いたいのか? じつはべつにそうでもない。ただ喫煙者には迫害されている身としての意地というものがある。

爪木崎にも海をバックにしたフォトスポットがあり、それがまたハート型をしている。「なんなんですか……伊豆はハート推しですか……」と言いながら撮影してみたが、強風にジャマをされてポーズを取ることさえ訓練のようだった。色々な試練をクリアし、あそういえばマリ絵はどうなった? と今頃思い出して岬を見たらちょうど豆粒くらいの彼女の姿が見えた。小さすぎてよく見えないながらもテキトーに写真を撮ってみたらなかなかいい2コママンガに仕上がっていた。(よく探してみてください)

暴風に煽られるマリ絵。パーフェクトな2コママンガ。

昼過ぎには克子と伊東で合流する予定。それまでに下田のペリーロードでお土産を買ったり(わたしは買いませんが……)、下田開国博物館にも行った。資料や遺品がかなり多く展示されていたけれど、個人的には辻村ジュサブロー(辻村寿三郎)作のハリスとお吉人形に1番魂を感じた。

いよいよ克子と合流。待ち合わせは伊東駅近くの昭和喫茶になった。ここはマリ絵も推していたけれど、いろんな人に勧められた店でネットでもかなりの人気店だ。シャッター街に近いアーケードの中にあるというのに店前には『待ち名簿』まである。運良く待たずに入店できたものの直後に満席になっていた。

マリ絵は張りきりすぎて、よせばいいのにホットケーキソフトクリーム、プリンにパフェなど名物全盛りスペシャルメニューのようなものを頼んでいた。

Hもたしかパフェだった。合流した克子はソフトプリンアラモードを注文。わたしは捻くれているのでジャムトーストとコーヒーをオーダーした。なぜかポテトチップスが付いていた。1番地味なメニューにも関わらず、お店の親父さんが特製ジャムについてやたら力説してくれて、コーヒーミルクも特製なので早く入れてくださいと急かしてくる。砂糖は大量に入れるわたしだが、コーヒーにミルクを入れるのはきらいなのだ。しかし親父は店内満席で忙しいはずなのに、よほど特製がご自慢らしくわたしが入れるまでテーブルでじっと待つ構えをみせている。なんという圧だ。「コーヒーを味わってからあとで入れさせてもらいますね」と言って窮地を脱したが、席を通るたびに「入れた?」とか言って特製ミルクのチェックをしてくる。こりゃ入れなかったら大変なことになるぞ……と、最後に少しだけ残したコーヒーに入れてみた。ミルクが旨いかどうかはともかく苦手なのでやっぱキモかった。

親父がすっ飛んできて「やっぱり特製はほかとはぜんぜんちがうでしょう……」と至極ご満悦だ。「てんでわかりませんね」と言ったらどうなっていたか、それもまた興味があるけれど、「あ、まあ、あはは……」と顔をこわばらせながらその場を凌いだ。まずいとも言いたくはないが、こんなわたしにも矜持というものがある。「おいしいです」と嘘もつきたくない。察しのいい人間なら即座に(いまいちだったんだな……)と気づくのだろうが、特製に囚われ自信の塊である親父にその察知能力があるはずもなく満面の笑みを見せてくれた。幸せなことである。なぜわたしだけこんな目に……。

ほか3人のスイーツ盛りに、なんとわたしの好きなプルーンが入っていた。大騒ぎしたら克子とHがこともなげにくれた。マリ絵はたしか食べてしまったあとだったけれど、あんなにてんこ盛りだったのできっと懇願したらくれたと思う。半分冗談で「見えないように隠したな?」と言ったら「土屋さんがプルーン好きだなんて知らなかったよ」と言い出してからが大変だった。

「おかしい。土屋さんは干し葡萄がきらいなのにプルーンが好きなのはおかしい。どちらも同じなのに」と言い張っている。こちとら特製親父との心理戦で大変な目に合っている時だ。そんなことは心底どうでもいい。プルーンは好きで干し葡萄はきらい。好みの問題に疑問を呈するとは何事か。それなのに、食に関してただならぬ探究心があるマリ絵はいつまでもしつこく食い下がってくる。特製おやじといいプルーンといい、なぜわたしだけこんな目に……。

店を出てから「ところで特製ミルクとはいったい……?」という話になる。たしかに変だ。特製ミルクとはどういうことだ。乳牛でも飼育して毎朝搾乳しているのだろうか。だとしたら執拗な特製自慢も納得できるというものだ。わたしだって乳牛を飼ってるオーナーだったらお客さんの目の前で微動だにせず「早く入れてください。特製なので」と急かすだろう。食に関してただならぬ探究心があるはずのマリ絵だが、話の内容が「牛ってふつーに飼っていいの?」に移行したのでとくだん興味なさそうだった。よってこの話は速攻打ち切りとなった。干し葡萄とプルーン問題より早かった。

そのあとは近隣の東海館(木造建築の旧旅館)に行った。去年だかに克子が行ったらしいが「もう1回行ってもいい」とおすすめの施設だ。最上階の大広間では、お偉いさんたちが夜な夜な宴会をしていたんでしょうねえ……と過去に想いを馳せる。3月ということもあり雛人形が年代別に展示してあって、克子もマリ絵も興味津々だったけどわたしは(怖っ……こんなとこで寝ろって言われてもぜったいヤダな)と思った。すっかり忘れていたが、祖父母と暮らしていた頃は七段の雛人形を飾ってくれていた。毎年写真屋さんを呼んで祖父母や叔父たちとひな壇の前で記念写真を撮っていたのでかろうじて覚えている。小一で両親に引き取られるまでだったけれど、今考えるとあれ毎年出して片付けるの超めんどくさいよなあ……。あと人形はどこ行ったんだろ。当時はメルカリとかなかったし。

東海館の1階に喫茶室があった。お腹はぜんぜん空いてないけど室内を覗いてみたくなり行ってみた。たしか全員お抹茶セットを頼んだと思う。広めの座敷で、襖で仕切られた隣室では三味線の練習をしているようだ。せっかくなので……と、襖近くの席に座ったらめちゃくちゃうるさかった。今考えてみたら、なにが「せっかく」なのかよくわからない。でもそんなことを言いだしそうなのは多分わたしだな。ホントうるさかったな……。

このあとはいよいよこの旅の本来の目的、メイン(ディッシュ)であるオーベルジュに向かった。2年前にここの料理に惚れすぎて絶対にまた行きたいと思っていた。

このホテル(の料理)については多くの友人らにいかにおいしかったか何度も力説している。見目麗しさもさることながらその味。自家栽培の野菜、手作りのドレッシング、ソースにジャム、パン(先述の特製おやじとはわけがちがう)。朝食の前菜とコーヒーの旨さ。宿泊先の朝食で、コーヒーを三杯もおかわりしたのも人生初だった。なによりもこの宿泊費でこのお料理ですか!? と驚愕したのだった。前回はマリ絵とHの三人で堪能したのだけど、旅から戻って「マジおいしかったねー」とHに言ったら「うれしかったねー」と返ってきたので目から鱗だった。そうだ、うちらうれしかったよね。その感想はあまりにも野生的で、わたしはちょっと感動さえしたのだった。

いよいよ食事である。席に着いたらウェイターが「メインディッシュのジビエを牛肉へご変更されるお客様が1名様いらっしゃると事前に伺っておりますが、そのようにお手配してもよろしいでしょうか」と確認してきた。1名様とは申し込みをしてくれたマリ絵のことである。彼女はジビエが苦手だ。しかしわたしも苦手なのだ。ちょ、ちょっと待てぃ! とは言わなかったが慌てて変更を願いでた。

前回は到着後に訊かれたのでその場で変更を希望したのだけど、今回まさかの事前確認だったとは。危なく泣きながらジビエを食べるところだった。他人の食の好みまでパーフェクトに把握しているマリ絵にあるまじきミスではないか!

旅から戻りしばらくして克子がLINEで「鹿が食べられない人をマリ絵さんひとり分しか申し込んでなくて、土屋さんがブーブー言ってたのも面白かった」と言っていたけど、そんなにしつこく文句を言っていただろうか? 言っていたかもしれない。うん、たぶん言ったな。

そのような危機一髪ハプニングがあったからというわけではないけれど、待望の料理については前回ほどの感動はなかった。もちろんすばらしかった。それはもうホントにそう。だけど、すでに『おいしい』と知っている我々に驚きはない。おいしいのがあたりまえだと思っているのだから感動はやはり薄れるものだ。

後日、五輪選手とかもやっぱ2度目の金メダルって感動は薄れるのかな……と言ったら「それとはぜんぜんちがうと思う」と言われて素直に納得した。

ホテルではテキトーに部屋割りをしたのだが、わたしとHの部屋は暖房がなかなか効かないうえにWi-Fiがものすごく弱い。Hは寒暖差の文句はほぼ言わないしスマホも一切いじらないのでどうでもいいようだが、わたしは向かいの2人の部屋にチェックしに行った。ドアを開けた瞬間、暖房が効いているのが一発でわかる。なんと電波も強い。「いいな〜電波も強いじゃん〜」と言ったら克子かマリ絵か忘れたけど「今さら替えないよっ!」とピシャリと釘を刺された。「替えて」とヒトコトも口にしていないのにひどい仕打ちである。でも本当は替えてもらおうと思ったのだった。言わなくてよかった。

翌日の朝、また彼女らの部屋に行ったら北向きなのかカーテン全開でも部屋が暗めで「あ〜暗い部屋じゃなくてよかった〜」と嫌がらせのつもりで大声で言ったけどシカトされた気がする。そして「富士山が見える」と克子に自慢された。悪いけど、我が家からも富士山見えるんですよねぇ……。

最終日の今日は、おおまかに小室山・道の駅・起雲閣に行くことが決まった。個人的には昔行った金谷旅館の千人風呂にもう一度行く気でいたのだけど、そこは昨日宿泊した場所付近で、現在地からは離れているとのことで時間的に無理っぽく断念。今また調べてみたら、伊豆といっても広域で、東伊豆、西伊豆、南伊豆、中伊豆となんと4ヶ所もある。東西南……ときたら次は『北』になりそうなものだが、なんなんですかね。これ以上は調べません。地理に弱いとこれだから不便。そういえばTwitterで”伊豆に行くのでオススメ教えて"って募集したら場所を訊かれることが多かったっけな。

金谷旅館の千人風呂にはたしか二十歳前後に行ったと思う。日本一の総檜大浴場というだけあって圧巻だった。温泉ブームだったのか温泉も脱衣所も芋洗い的な人の量だったのをよく覚えている。前が見えないくらい立ち込める湯気。今思い出すと『千と千尋の神隠し』のような雰囲気でちょっと夢っぽかった。機会があればまた行きたいと思っていたのだ。けれどもその話をしていて、疑問がひとつ生まれた。あの時たしかに千人風呂に入った。けれども当時はボーイフレンドたちといっしょだったから、混浴の千人風呂に入るわけなくない? ということだ。いっしょだったHも「でもたしかに入ったよね?」と言っている。わたしは当時から風呂ぎらいでただ千人風呂を見たいという好奇心だけだったのだが、男子たちは風呂好きばかりなので確実に入っているはずだ。にしても老人じゃあるまいし、血気盛んな男女が裸体を晒したらコーフンするでしょーが! ちょっとそれはないでしょー! ということで、結局アレはなんだったんだということになった。いまだに謎である。

今日はまず1番近い小室山からスタートする。数年前に整備されて『小室山リッジウォークMISORA』と呼ばれているらしい。頂上には小洒落たカフェや展望ブリッジが新設され、フォトジェニックな山として人気のようだ。インスタ映えと聞くと「ケッ!」と思うけれど、1人用リフトに乗ってサクッと頂上まで行けるのならぜひ行ってみたいと思ったのだった。

こうして伊豆紀行を書こうと思って、みんなが覚えている面白エピソードなどをLINEで訊いた。克子が「誰かホテルのフロントで『小室山って楽しいですか?』って聞いてたよね。なんか覚えてる。『楽しいか』って聞くの新鮮だった」と言ってきた。そんなことを訊くのはまちがいなくマリ絵だ。克子は「土屋さんだと思ってた」と言っているが、まずわたしは言ってない。そしてHは絶対に言うはずないしそもそも楽しいかどうかもあまり考えそうもない。そうなると消去法でマリ絵しかいないのである。少しばかり推測のやりとりを交わして実際彼女だったわけだけど、数日後にHが「あの時アソビ、ホテルの玄関先で『見て見てマリ絵あんなこと訊いちゃってるよー! ホテルの人が楽しくないなんて言うわけないじゃん、うっしっし』って笑ってたよ」と言ってきた。ぜんぜん覚えてない。というか、だったらLINEでそれを教えてくれれば早く解決したじゃないか。

閑話休題。

ということで、フロントでは「楽しいですよ」と答えてくれた(そりゃそうだ)小室山に行った。駐車場から混雑していたので「えーー」と思ったけど、1人リフトの順番はすぐにまわってきた。

リフトが流れてくるシートにタイミングよく腰を落とすときってちょっと不思議な感情じゃないかと思う。緊張というほど大袈裟なものではない。でもやっぱり平常心でもない。ちょっとだけ緊張するって感じだろうか。あの瞬間に沸く気持ち、アレはふつうに生活している中ではほぼ経験しない。リフトに乗るときだけの感情だ。わたしはというと、あの瞬間なにがおかしいのかいつもニヤけている。もしかしたら緊張を和らげようとしている可能性もある。

あっという間に頂上に到着。快晴で、目の前はだだっ広い海。振り返ればデカい富士山も見えるという絶景だ。とはいっても、やはり『映え』を狙っているだけのことはある。すべてがちょっと人工的で景色以外はどうも不自然なのだ。

オシャレカフェは高かったしずいぶん待つようなので入らなかった。さらに嘘っぽい小さな神社があって、お参りするための列までできていた。神社仏閣の類が大好きなマリ絵はもちろん、克子も並んでお参りするというので、Hといっしょにそこらへんで待っていた。あとで、「君ら、あのしょぼい人工的な神社でお賽銭あげてたよな」と言ったら、マリ絵からラインでこんな返答があった。

小室山があんな感じになったからああいう構えになってたっぽいけど由緒正しんやでっ(立札に書いてあったのを読んだ)300年以上。神社になりかわって言っておきます 小室神社

次に向かったのは「道の駅」。というか、道の駅はおそらく点在しているだろうからと車内で鬼のようにググるマリ絵と克子。この2人はとくに道の駅が大好きなのでかなり張りきっていたのだけれど、そんなになかったようだ。

着いたのは「道の駅 伊東マリンタウン」。テーマパークさながらのバカでかい施設だった。駐車するためにすでに渋滞していて嫌な予感がしていたけれど、わりと大きな喫煙所にオッサンが群がっていたのでわたしの好感度はアップ(いつも迫害されているので喫煙所があるところは良いところという偏見がある)。

けれども中は案の定、わたしの知っている道の駅ではなかった。地元農家の野菜や漁師さんの魚介などは皆無で、中堅どころの企業らしき店がテナントとして入っている。サービスエリアといい道の駅といい、資本主義に牛耳られて庶民はいい餌食だ。とはいえ土地柄イカの一夜干しがあってもよさそうなものだがどこにもない。塩辛はたくさんあったけれど、イカの塩辛に関してはパーフェクトな目利きの才を持っているわたくしのお眼鏡に叶う物もなかった。

4人とも「ちょっと想像とちがう」とは思ったものの、そんな中でもマリ絵と克子はかなり物色していてそうとう買物をしていた(と、思う)。

次に、熱海の三大別荘と言われているらしい「起雲閣」に行った。100年以上の歴史を持つ熱海市指定有形文化財。名だたる文豪が愛した歴史ある名邸とのことだったけれど、ズバ抜けて印象に残るものはなかった。

推定20トンの大石が庭にあるという。ソリを使い、2ヶ月以上かけて10人以上の庭師とともに運び入れたとのこと。彼らの集合写真があって「楽しみながら庭師が大石を引っ張っていた」というようなことが書いてある。楽しんだわりには、屈強で日焼けした彼らの中に笑顔の者は一人もいない。わたしはひねくれているので「楽しんでるはずないよねー。絶対ヤだよねー」と言ったけど、たしかみんなにスルーされた。でも本当のところはわかんないな。賃金がずば抜けてよかったら楽しい(うれしい)のかもしれない。

その20トンとやらを見物しに庭園に出てみたけれど、地上に出ている部分は一部とのことでご自慢の大石にビックリするようなことはなかった。ビックリしたかったし、庭師の皆々さまだってせっかくなのでビックリされたかったにちがいない。

こんな風呂もあった。

大石にはビックリしなかったけど、熱海の混雑ぶりには仰天した。「最近の熱海は盛りあがっている」と噂には聞いていたものの、あの閑散としたシャッター街がここまで大復活を遂げているとは予想だにしなかった。空いているパーキングを探すのに一時間近くかかった。やっと駅前に駐車し商店街に行くと「何事か起こったのか⁉︎」 と思えるほどの人人人……。かつての原宿竹下通りのようで歩くのもままならない。黒山の人だかりと言いたいところだが、茶髪やギャルの若者で溢れかえり色とりどりだ。リノベされた小洒落たカフェやお土産屋は大行列で店員が大声で整列を促していた。

我々は昼食をとろうと熱海に寄ったのだけど、あろうことかみんなお昼休みをとっている。食事処はことごとく14時から17時までクローズ。スイーツやカフェは営業しているものの、熱い海と書いて熱海まできて昼食にケーキやプリンなど食べるのは屈辱に近い。どうしても新鮮な魚が食べたい。いつもは徒歩10分の下高井戸まで歩くのもめんどくさいのに、ここは 中年〜高齢者の意地の見せ所である。歩いて歩いて歩きまくった。しかしこれがあとあと自分の首を絞めることになるのである。

結局のところ、見事にどの店も空いてないのでこうなったら車で移動しようということになった。意地の敗北ではなく前進である。そうとうな距離を歩いたので駅前の駐車場までかなり離れてしまったようで、戻るのにまた恐るべき時間がかかった。『熱海駅近道はこちら → 』などという看板を発見。見上げるほど長い階段だったがこの先には駅があると信じて上った先にはさらに階段があって階段詐欺と命名した。ずいぶん前にマリ絵から「運動神経が悪いので階段の上り下りさえ命懸けなんです」と聞いたことがあるが、最近ジムに行ったりジョギングしているらしくわたしよりずっと健脚そうだった。

這々の体で駐車場に辿り着き、車で箱根湯本駅前まで向かうことにした。ここなら何かあるだろうという目論見だったがDenny'sしか見当たらない。ここまで引っ張ってさすがにファミレスは嫌だ。ググって何件か回ったけれど(マリ絵が)、やはり17時までクローズの店ばかり。やっと見つかったなんとか食堂という名の居酒屋に入店できたときは神の助けだと思ったし、店主らしき女将に手を合わせたくなった。

ところが、である。定食メニューを見たら「金目鯛煮付け定食・サバ定食・アジのお造り定食」しかない。みんなはそれでいいのだろうが、わたしはどれも苦手だ。金目鯛はかろうじて食べられそうだが一昨日異常量の金目鯛の煮付けを食べたのでうんざりしているしおそらくムリだろう。小料理を3品くらい頼んで「ご飯とお味噌汁別途注文できますか?」と訊いたら「できません」とピシャリと言われた。定食があるのにごはんと味噌汁注文できないの? ドケチすぎる! と激しく憤った。しかも、みんなの定食には小鉢がいくつも付いていてすこぶる豪華だ。味噌汁なんて大好物の豚汁で量もある。みなさんに恵んでもらってなんとか凌いだけれど、この恨みはしばらく引きずることとなった。

カフェなのにガムシロも砂糖もない店の件をまだ根に持っているが、ごはんと味噌汁を提供してくれないとは食堂にあるまじき行為。この2軒の話はことあるごとにしていこうと誓っている。食い物の恨みはそれほど恐ろしいものなのだ。

さて。そろそろ帰らなければならないのだが、伊豆に来てわたしの海鮮欲がまだ満たされていない。ハマグリの磯焼きやらイカの刺身やらをまだ胃袋に収めていない。しかも食堂では酷い目に遭った。なんとしても屈辱を晴らしたい。車の中で延々と文句を言っていたのだけれど、小田原あたりで突如救世主が現れた。閉店間近の『いしだ商店』である。一階は土産物、二階は海鮮丼と浜焼きの専門店。なんと、この旅でずっと探していたイカの一夜干しも売っている。二階に上がってメニューを開くと、ハマグリやら牡蠣やら海老やら盛り沢山で、何から注文していいかわからないくらいだった。

終わりよければ全てよし。あの憎き食堂への怒りもかなり緩和された(と言っても許してはいない)。ほぼ全員が浜焼きをオーダーしたのだけれど、マリ絵が焼きあがったであろう牡蠣を口にした瞬間、「冷たっ!」と言ってすぐに網に戻した。驚きのスピード感だった。克子はおいしそうに食べていたので、おそらく同じコンロでも場所によって火加減が違うのだろう。マリ絵はそれからしばらくノロウイルスの心配をしていた。猛スピードで網に戻していたし、あの一瞬で罹るわけなかろう。誰のせいでもないのは十分承知のようだったが、謎の何かに憤っていたので可笑しすぎてわたしの食堂に対する憤りもかなり治まってきた(とはいえもちろん許してはいない)。

最後に海老名サービスエリアに寄る。ここは過去にも何回も利用してきたけど、日本最大級というのは初めて知った。目新しいところで成城石井がかなりのスペースを陣取っていた。ヤンキーファミリーやトラックの運ちゃんが多い場所で成城石井はどうなんだ……と思う。

わたしとH、克子は喫煙者なのだが、「"喫煙隊"のみなさんは喫煙所に行くでしょうから車のキーを先にちょうだい」とマリ絵が言い出したのでしばらく我々は隊員になった。"喫煙隊"が気に入ってしまい、何度も何度も連呼することになる。

わたしはふつうに日記を書くつもりでこの伊豆の旅行記を書いていたのだけど、途中でマリ絵の言動に笑いが止まらなくなってしまい一部を伊豆旅グループラインに送った。

自分で面白い言動をしている自覚のないマリ絵がどんな反応をするか興味深かったが、本人も「これは面白い」と認めていた。認めざるを得ないだろう。ところが自分が面白いのではなく、書いているわたしによるものという見解を示してきた。

ググったところカント(全然読んだことないけど)が「美は対象の性質(客観的特徴)ではなく、観察する人の主観的な感情に基づく判断だ」的なことを言ってるらしいので「美」を「おもしろさ」に変えたら、ほら。

「ほら」ってなんだよ! 旅が終わってからも笑わせてくれるマリ絵先生、スケジュールや旅の手配まですべてやってのけてくれたのを今頃思い出した。良い旅をありがとうございました。

奇行文序盤を送った時の克子の感想。素でまちがえていたのでこれをタイトルとした。

伊豆(マリ絵)奇行 終



#7/19/2026 07:22:00 午後 このエントリーをはてなブックマークに追加



2026/07/15
[#]買物が下手すぎる

 

2026.7.15

人知れず、そっと祖母に献杯するオン。

2026.7.18

エアコンガンガンのスーパーを出たら、湿度のためメガネが一瞬で真っ白に曇って視界が遮られたものの「意地でも拭かないぞ…拭いてなるものか…」と心に決めて歩き続けて世界がひらけた。

2026.7.19

実家の片付けを4人がかりでやった。やればやるほど足の踏み場がなくなってしまった。どういうことだろうか。

そのあと深夜の公園で、旦那の妖怪オバケ目撃談が止まらなくなり散々聞かされた克子さん、大変お気の毒でした…肉体労働のあとなのに…。

2026.7.20

mont-bellのUVカットクールパーカ買おうと思ったら完売だった。腹いせに変な帽子を買う。さすがに街中では被れない。

2026.7.21

昨日はベランダが火事場のように熱くて地獄っぽかったが、今朝は滝汗で川に入ったあとのようで逆に清々しい。

2026.7.22

以前大いにウケてしまった二宮金次郎にお供えしてあった。これってそういうもんなのか?

2026.7.23

旅のためだけに買ったサコッシュがなかなか発送されず焦っていたけれどいきなり届いた。届いたのはいいがサイズがぜんぜん小さい。これはヤバい。去年ラオス初日に熱中症になった経験を踏まえ、今回はペットボトルが入るものを買ったつもりだった。何回もサイズ確認したのにどういうことだ(わたしが悪い)。ストラップをセットで購入していたので、悔し紛れにこれだけは使おうと思う。コンビニのレジ袋に取り付けるつもりだ。本当にわたしは買物が下手すぎる。こんなんでオンラインショップを運営していていいものだろうか……。



#7/15/2026 07:21:00 午後 このエントリーをはてなブックマークに追加



2026/07/04
[#]呼吸が止まったらしい

 

2026.7.4

オカンが入居しているホスピスはありがたいことに24時間面会可能。わたしはだいたい日が暮れてから行くことにしている。この暑い時期に歩くし、仕事もあるので夜の方が好都合なのだ。

今日の夕方、「呼吸が止まったらしい」とオンからLINEがあった。ちょうど少し前に、寝ている彼女の写真がオトンから送られてきて、その顔を見た時(今日こそ本当にヤバいかもしれない)と思った。早めに仕事を切り上げて18時ごろには行こうと思っていたところだった。「え。死んだってこと?」とオンに返信したら「わからん」と返ってきた。今思えば、呼吸が止まることは死んだと同義語だ。小学生でもわかる。それなのになぜかわたしもオンも「行くまでわからない」本気でそう思っていた。この2ヶ月、何度も何度も「今日こそ危ない。今日こそ危篤だ」そう言われていた。

すぐにはちみせを出たけれど、それでもわたしはタクシーを使わずに20分歩いてバスに乗車、そしてまたゆっくり歩いてホスピスに向かった。弟が大事故にあって生死を彷徨った時も、いつものように京王バスに乗って向かったことを思い出す。己のパニックに気づかないフリをするとき、逃げたいけど逃げられないとき、きっと自分の中の何かがそうさせているのだと思う。

部屋に入るとすでにオンとオトンがいた。彼らの隙間からオカンが見える。眠っているのか死んでいるのか一瞬ではわからず、「死んじゃった?」と声にしたら「死んじゃったね」とオンが答えた。オトンが何度も「でもまだ、あたたかいんだよ」と言うのだけど、触った顔も握った手も硬く冷たい。それでもまだ彼は「あたたかい」と言っている。

オトンがみんなで写真を撮りたいとしつこく言うので、呼吸の止まった人含む4人で写真を撮った。

旦那が来て、葬儀屋も来て、2時間余りでオカンは運ばれて行った。火葬場が混んでいて10日はかかるという。はちみせの企画展翌日だ。展示準備期間に危篤状態になっても気が気でなかったし、会期中だったら展示を中止にするしかない。最後にオカンは子孝行してくれた。

オカンが運ばれたあと、オトンの希望もあって近くのファミレスで食事をした。回転寿司のようにレールで運ばれてくる店は初めてだ。しかも我々がオーダーしてない料理のときはものすごいスピードで通り過ぎていく。一瞬で消えていくサラダ、ピザ、スイーツ、パスタ。オカンが死んだ直後だと言うのにその度にウケてしまった。

解散。またわたしは同じ道を歩いて帰る。神田川を二度渡る。中高生の頃、何度も氾濫した神田川。台風の翌日に、近所の総合病院の注射器が大量に流れていたことを思い出す。そういえば、なぜか子豚の死体が流れてきて大騒ぎしたこともあった。オカンがいなくなった中野区を、杉並区を、神田川の橋を、この空の下を、いつものように歩いて帰っている。

帰宅。今朝出た時と同じままのいつもの部屋に戻る。「親が死んだのに、これはなんだろう……?」と不思議な感覚に陥った。数時間前に死んだオカンがドライアイスに囲まれた霊安室にいるというのに、明日にはもうはちみせに行って仕事をする。

ただ呼吸が止まって、心臓も停止して、細胞が全滅しただけなのか、あるいは魂がどこかに浮遊しているのかわたしにはわからない。わからないけれど、オカンの肉体がある方向に向かって手を合わせた。

わたしははまだ泣いていない。祖父母や友人、犬たちはもちろん、飼っていた金魚が死んだ時でさえ号泣したわたしが、まだ、泣いてない。

2026.7.9

はちみせでのZINEフェスは明日の夕方から。今日中に設営する予定だったけれど、一部を出したらHといっしょに途方に暮れてしまった。多すぎる! そこにイラストレーターの伊野孝行さんが納品に来て「こんなに本が並んでんの! じっくり読めて楽しそうだな」と言っていたのできっと楽しいはず。楽しいはずだが我々はもう設営やプライスシールを貼る余力が残っていない。残ってないけど食事に行く余力はある。伊野さんが、おかみさんの大川景子さんも呼ぶから食事に行こうと言うのでふたつ返事をした。

鳥ぎんが奇跡的に空いていたので入店を果たした。景子ちゃんは映画編集者。わたしたちの友人の息子が初の映画を撮ったのでその話をしたら、近々彼といっしょに仕事をすると言う偶然があった。 さっそく友人に伝えたら「きっとお金ないだろうから仕事あるの知ってありがたい〜」と喜んでいた。ちなみに映画は『メモリィズ』(監督・脚本:坂西未郁)。伊野さんはすでに観てくれたそうで、「すごくよかったよ」と言っていた。小さい頃から知っているので感慨深い。

映画話のあとは、景子ちゃんが韓国ドラマの話を振ってきた。おいおい、我々は毎週いっしょに韓国ドラマを観ているんだぞ? と、すかさず前のめりになる。(どんな人にも興味が希薄なので)初対面の人とはほとんど話さないHも、景子ちゃんの矢継ぎ早の質問に倍返しなほど答えていた。景子ちゃんはどうやら暗いドラマが好きらしいのでお勧めのドラマをいくつも紹介。韓国ドラマに興味のない伊野さんはほとんど喋らず、それもまた稀なシーンなので珍しいモノを見た気分。

2026.7.10

ZINEイベント。夕方からオープンなので、ヨヨが早めに来て一気にプライスシールを貼ってくれた。石山さやかさん、のそ子が来て予告ナシで突如納品してくれた。田川亞希さんは「これは楽しい。毎週やってくれ!」と絶賛していたのでイベントは成功したと言えよう。

2026.7.11

ZINEイベント二日目。ガラプロくんがきて、店内で思いっきり製本を始めていた。

彼は息子と同じ歳くらいなのが判明したので今日から君付けだ。伊野孝行、武者小路晶子、esou ceramics菊川、克子とガラブロくんでたまものに行った。武者小路さんに、前回のわたしの"どやされ武勇伝"の話を振られて話したけれど、もう彼のことは完全攻略してしまったのであまり熱が入らなかった。あとはなんだっけな……たぶん菊川さんが面白いこと言ったはずなんだけどな、忘れたな。でも閉店までずっと話しまくっていたような。

2026.7.12

イベントラスト。はちみせの最終日は会期中の中で一番お客さんが少ないのが常だが、今日は一番多かった。椅子に座ってじっくり読んでくれる人が多いのも良い光景だ。初参加の臼田ルリさんが、どでかいスーツケースを抱えて展示搬出後に寄ってくれた。

帰路、ずっと電話をしていて気づいたら自宅マンションの前だった。わたしは普段それほど電話もしないし、ましてや歩きながらなど皆無なので、(なるほど、これはデンジャラス行為だ)と思った。でも、バスや電車内で電話することが御法度なのはいまだに納得いってない。30年前に出したZINEにも「どうして車内通話がいけないんだ! ババア連中や酔っ払いが車内で騒いでるほうがよっぽどうるせえじゃねえか!」などと書いているし今でもそう思っている。わたしはもう立派なババアだが確かにうるさい。

他人の通話が気に入らない器の小さい人。その理由はのちに解明したけれど、ここで書くのはめんどいのでそのうちまた。聞きたい人ははちみせに来てください。うるさいほど話します。

こうして書いている間にも、行動してる間にも、オカンのことはずっと脳内の片隅にある。もうどこにもいない事実が、安堵と空虚の往来を忙しくさせている。

よくわからないけど、もしかしたら「呼吸が止まったらしい」。ここでわたしの時間は止まっているのかもしれない。





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