夜だった。大通りを、小学校のある方向に入ると、いきなり車も人もめったに通らない住宅街になる。すでに遅刻をしているので、大股でわさわさと校庭の横を歩いていたら、一つ先にある街灯の下あたりに、4,5歳くらいの男児を確認した。紺色のTシャツに半ズボンをはいて、ヒゲダンス(
youtube)を踊りながらこちらに向かってくる。「いまどきヒゲダンス?」と思いながら、子どもらしいパフォーマンスをほほえましく凝視していたがフト、こんな夜更けに一人歩き?と周囲を見渡してみた。誰もいない。
ヒゲダンスはヒゲダンスのまま私の横を通り過ぎた。観客のように彼の一部始終を見送っていたがどうにも気になって少し追いかけ「ねえねえ、ぼく一人?おかあさんは?」と聞いてみた。男児はヒゲダンスのまま、一定のリズムではるか遠くを二回、指さした。
たしかに白いワンピースのようなものを着た女性らしき人影が目に入った。その瞬間、
ショタコンと思われてはたまらない、とあわてて私は足早に友人宅への道を右折した。
曲がって10歩ほど歩き、さらに右折すると正面に友人宅が見える。あけっぱなしの玄関からは煌々と明かりがもれ、暖簾をくぐって一瞬の間、私はみなに声をかけることもしないで立ちすくんだまま心底安堵していた。
「わ、(めずらしく)おとなしく登場してきた」
と言われて一気に緊張が解けた私は先ほどの話をぶちまけた。息を切らしながら、あの白いワンピースの女は実在していたのか、にわかに気になったが、みんなウケていたのでいい気になってその不安はあえて口にはしなかった。今でも彼は、もしかしてヒゲダンスのざしきわらしじゃないのか、少し、気になっている。
そのあと、変なテレビとかみて気を取り直し、来るヤンキー撮影会に向けてのリハーサルと称してこんな(特殊)メイクをしたりした。この女性は神田ぱんだが、この写真を友人らにおくると「アソビ?メイクでずいぶん変わるね」と返信が来た。(コレステロール)伊藤家では、3vs2で、この写真の女性が私だということに決定したのだという。
ヤンキー撮影では、確固たる自信を持って挑み、準備も念入りにしているつもりだが、このメイクを見せつけられて意気消沈した。でももう一人意気込んでいる香香という女がいるからまあいいや、あいつより私のほうが上だろう、と思ったら、皆が「香香はぜったい似合う。彼女は美しいし写真うつりもいい」とかつまんないことを言い出して、主役の座(スケ番)はおろか、二番手(ウラ番)まで危うくなり、一気にやる気がうせた。でも今日になって後輩である”かわいいほうの伊藤ちゃん”が、撮影参加に興味を示しているので、またふつふつと意欲が復活した。まさかあの、医大に通う才女”かわいいほうの伊藤ちゃん”が私よりコワモテになるはずがなかろう。そんなことがあろうはずがない。