いやべつに、
ヒール女が再訪したわけではないのだが、思いおこせばいともカンタンに、あの甲高い音が耳鳴りのように蘇ってくる。除霊のため、やたらにめったらヒール絵画を貼り付けてみた。とち狂ったわけではありません。
昨晩、ヒール女はこなかったが、息子オンから妙な報告を受けた。私の不在中に
「また気味悪い女がドアの前でこっち見てた」
というのである。
父親、五十嵐のDNAのせいか、それよりも、その後の「オカマの足を踏んで、執拗に『アタシの足踏んだでショ!?アタシの足踏んだでショ!?』と何回も言われた」ということを早めに伝えたかったからかわからないが、オンの説明は、一瞬では理解に苦しむものがある。
彼の言う「また」言うのは、先日、三人組の(おそらくエホバの)見知らぬ女たちが来たことを指していると思う。ドア越しの、あまり
に直球なめざめよ!オーラに恐れおののき、思春期の青年はついにドアを開けなかったそうだ。そして今日である。
では、「こっち見てた」というのはなんだろうか。ベルが鳴り、ドアスコープを覗くと、今度は一人の女(中年)が立っている。そして、じっとこちら側を凝視していた、ということだった。青年は「居留守」という、身内にしか試したことのない行動にでた。なぜそんなこと(居留守)をしたのかと問うと、「いや、俺、裸だったから……」と口ごもる。家では一年中裸で通す男だ。初対面の人間だろうが宅急便の兄ちゃんだろうが、私の友人の、同じ年頃の娘(高二)であろうが平気でパンツ一枚でゴーカイにドアを開け放つ男が、見知らぬ中年女というだけで、躊躇するだろうか。それとも君、パンツさえ履いてなかったということか。
どちらにせよ、私はそれ以上問わなかった。たしかにその後の「足を踏んだオカマ」の話がいかにも愉快だったから、ということもある。だが追求したところで、今日こそ「やっぱし千円あげるからいっしょの部屋で寝てください」ということの出来ない、母のメンツである。