昼ごろ出社して、
あ、浮浪者が来た
と言われた以外はあまり書くことがありませんので、10年前に私が何を書いていたか掘り起こしてみました。過去を振り返ることは死期が近付いているってことなんですかねえ。
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先ほど電話がかかってきたので出ましたら、相手は私の悪魔声に恐れをなしたのか
あれ、松本さんのお宅じゃないですか?
と言いました。中年ババアのような声の主でした。私は間髪入れずに
いいえ違います
とあっさり言ったんですが、その瞬間に耳を押さえたくなるような大声で
ええええええっーーーーーーーーーー!!!!!
と叫ぶのでこっちの方が驚きました。人間って、電話をかけ間違えたくらいであれほど驚くことが出来るものでしょうか。よほど驚きのない生活を送っているに違いないです。 それでワタクシはとっさに
『えっーー!!』じゃなくって……
と言ったのですが、中年ババアは何やら電話口でこそこそと
松本さんじゃないんだってよ。間違えちゃったかねえ
とか言ってるんですよ。
ちょっと
と言うといきなり声色を変えて忙しくもない私に向かって
まあまあお忙しいところすいませんでした。失礼しました
と言ったのはいいんですが、そのあと
松本さんじゃないんですよね
と念を押すとはいったいどういうことでしょうか。可笑しくてしばらく笑っちまったじゃないですか。
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『渋柿を好きな人っているか』について白熱した論争になり、結論は出ませんでした。
私は去年の暮れに初めてシブ柿と言うものを口にしてしまい、
今まで食べた(と思っていた)渋柿はいったいなんだったのか
と2-3日寝込んでしまうような哲学的マズさを身をもって体験、『渋柿パニック』と命名し、私唯一の記念日にしたほどのショーゲキを受けたのです。
まあ塀からニョキっと出ていたよそ様の庭の柿をなにげなく、そして何事もなかったようにポキッと永久拝借してしまったのが悪かったのでしょう。
ゲーッ!ゲーッ!ゲーッ!
と100万回くらいは言ったと思います。
食べた直後のあの不快感は想像を絶するものがありました。セメダインを上顎と舌に塗りまくったような感覚が延々と続くのです。私はあれから柿に拒絶反応を起こすほどになりましたが、なんの躊躇もなく柿を手にする人は恐らく本当の渋柿を味わったことはないような気がします。全身の細胞が覚えているような、もの凄いあの味を経験した者に、柿を口にする勇気ははたしてあるのでしょうか。
と、今でも熱く語れるほどのあの不味い柿を、友人は
味覚は色々だからさ、好きな人はいるんじゃないの?
と言うのです。終始
絶対にそんな人はいない
と言う私に対し、
でもアンタいつも言ってんじゃん。『世界を見てから言え。世界は広い』って
とか
だって蟹ミソ(彼女は蟹ミソが嫌い)とかウンコ好きな人がいるんだからサ、渋柿だって好きな人いてもおかしくないっしょ?
と言うのでものすごくシャクにさわる。この場を借りてアンケートとろうと思ったのですが、しかし先ほど書いたように、本当の渋柿体験者は実はそれほど多くはないような気がするのであんまり意味がありません。
こんなことになったのも、サザエさんでカツオが渋柿を食べていたせいだ。
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ここに来る前にサ、スゴイの見ちゃった。伊勢丹の地下でバームクーヘンの試食があってガキが必死に食べてんの。あまりの食いっぷりにしばらく見てたんだけど、中年のオッサンもちょっと離れた場所でその様子をじーっと見てたのね。で、そのガキ手が汚れたもんだから試食のバスケットの上でペッペッて感じで払うわけよ。バームクーヘンの上でっ。汚いじゃん。でもまた食べてんの。そしたらオッサンがスルーと近づいてきて注意するのかと思ったらいきなりガキの手垢にまみれたバームクーヘン食べ出してさあ、そしたらガキなんかもう慌てちゃって口いっぱいに詰め込んでバークバク食べだしたワケよ。両手を使ってんの。オッサンもさあ、別にレゲエ風じゃないんだよ、なんか上品な奥さんかいて、老夫婦で夕飯のおかずを買いに来たんだけど買い物があまりに長くて待ってるウチに火がついたって感じ。何かスイッチが入ったようにバクバク食べ出して、見たらバームクーヘンの形状じゃないんだよ、ガツガツ掴むもんだからもうグチャグチャなの。バームクーヘンのカス、カスと手垢食べてんだよ、もう必死にさあー。凄かったね、あれは。マンガだよ、マンガ。オッサンってところがいいでしょ、オバハンじゃなくて。
と、そのようなことを先ほど友人に向かって一気に捲し立てましたがアッサリ
食欲の秋だね
と一言で片づけられてしまいました。
しかし確かにあの光景に題名を付けるとしたらその言葉はピッタリだと思いました。
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