たったひと言(というか一文字)でも、他人を恐喝する可能性があることを思い知った。
一文字恐喝記念日だ。
5人でミックスフライを食べに行った。
今日は揚げ物の話をするわけではないので割愛するけれど、わたしの人生においてミックスフライを注文する店というのは唯一ここだけだ。数に限りがあるので我々はわざわざ電話をかけ、「ミックスフライありますか。あと何個ありますか?」としつこく聞いてから意気揚々と出向く。
そんなスペシャルなミックスフライを平らげたあとは、セットの飲み物とデザートがでてくる。大概が手元がややおぼつかない高齢の女性か、その親戚筋かご主人であろうオヤジが運んでくる。
さらに話はそれてしまうが、このオヤジは年中ハデな色の半袖を着て、頭にバンダナを巻き、店が少しヒマになるとハーモニカの練習をする。演奏ではない。練習である。「これは練習です」と聞いたわけではなけれど、同じフレーズをなんども吹いていることからまちがいなく練習である。
最初にその音色を聞いたとき、奥のテーブルにたまたま母子らがいた。母親は、子供たちが少し声をあげると
「静かにしましょうね」
「ほかのお客さんがいるのよ」
などとやたらを気を使っているようで、わたしは「走り回ってるわけじゃないし、かまわないんだけどなー」と言おうかどうしようか逡巡としていた。
ところが、子供がいきなりヘタクソなハーモニカを吹きはじめたのでやや面食らってしまった。うるさくはない。けっしてうるさくはないんだよ。うるさくはないしほほえましい限りのド下手具合だけれど、それにしてもあの常識的なやさしい母親がよく注意をしないものだな……とは思った。
けれどもやはり、さぞかし心苦しい思いでいるだろう、そう思って、わたしは彼女たちのテーブルを見ないよう見ないように努めたのだった。
見ないように努める、自らを「べからず」で抑圧するのはひどく疲弊するもので、わたしは早々に席を立った。
そのとき、見えたのである。
え。
厨房の奥でのんきにハーモニカを吹くあのオヤジを目撃したのだ。
「お前かよ〜!!!!!!」
と思わず声にでてしまうところだった。このド下手な、なんども何度もリピートしているこのフレーズの主が、まさかの成人男性だとは夢にも思わなかった。緊張感を持ってテーブルを見ないように努力したわたしのムダな心遣いを返してほしい。
そんなハーモニカオヤジが、今日もアイスコーヒーとデザートのアイスを小さなトレイに乗せて運んでくる。ここです。ここが勝負である。
アイスが「バニラか抹茶」のどちらかでやってくる。有無を言わさずやってくるのだった。店主の気まぐれか粋な計らいなのかわからないけれど、とにかくこれは一大事だった。
しかも今日は5人だ。ひとり……ふたり……と順にルーレットトレイは運ばれてきて、どうやら全員がバニラというピースフルな状態に落ちつきつつあった。よかった……人類皆兄弟……などと安心してアイスコーヒーにガムシロを入れていたところ、
きたのである。
例のカラー、モスグリーンに輝く抹茶アイスがラストひとりHさんの目の前に。
それを目にした途端、
「えっ!」
と声が、どちらかというと大声が、つい出てしまった。
その直後、
「Hさん、土屋さんの脅迫に屈しないでくださいっ」
と親しい同僚がにべもなくピシャリと言い放ったのであった。
ちょっ、待ってくれ。
わたしはただ一文字を口にしただけである。「一言」ではない。「一文字」である。
その前後、アイスについての話題に1ミリも触れてない。
ただ「え」と言っただけ、それだけだ。それを恐喝とみなすとはナニゴトだろう。
もしかしたら窓の外にUFOを見た「え」かもしれないし、脳内で哲学的思考になっていて、なにかを悟って「え」となったのかもしれない。なんらかの大発見をした可能性もゼロではない。
それなのに、間髪入れずに恐喝とみなすなどあまりにも情けがない。もはや人権侵害、冤罪である。
この世の中、未来永劫「え」と言っただけで恐喝で有罪になった者がいますか?
けれども、しつこく食い下がったわたしの主張は、
「たったひと言がすべてを物語るってことあるんですよ……」
と言われたことにより木っ端みじんに玉砕しました。
けれども冷静になって考えてみると、わたしの一文字、あれは恐喝じゃなくて懇願だぞ?
ーーー
ところで、わたしが運営しておりますオンラインショップはちみせ、11月は怒涛の新作ラッシュで、ほぼ毎日と言っていい。
猟奇殺人者のマグショッットボールペンを作ろうとしてとりあえずモックを作ってみたら、なんだか怖くなってプーチンが愛する動物たちとのラブショット18連チャンボールペンなど作っております。
あと、初期マックのhello文字グッズはキャップ、マグネット、ステッカーにバッジと、めっちゃ張り切りましたのでみなさん全財産叩いて買ってくださいne
onlineshop はちみせへGO