昨日の深夜、高速でいきなり車が止まりました。わたしは呑気に、しかも大声でカラオケ大会を催していたものですから、(というかオケがないのでアカペラなんですけども)止まったことさえしばらく気付かなかったのですが、運転手Mさんが「ガ、ガス欠だ……」と言いだしました。
そのときでさえそれほど緊迫した状況だとは思わず、「あそ」くらいでわたしなどはまだ歌の続きを聞かせようと思っていたくらいです。
そしたらですね、血相を変えた運転手のMさんが「降りて降りて降りて!」と言いだしました。ちょうどタバコが吸いたくなっていたので、ちょいどいいかあ~くらいに思いましたが、なにしろMさんの表情が鬼の形相です。しかも、こんな道路のど真ん中で降りるなんて、いくらわたしでも尋常ではないことに気づきました。「え。なに」
大抵の場合、運転手が「ガス欠」というときは、「そろそろガス欠になりそうだ」というニュアンスがこめられているものです。ところが今回は、完全なるガス欠、液体ゼロ。もーー1ミクロンも動きゃしない状況になったわけで、わたしはそこで初めて状況を悟りました。つまりあれだ。あれだというか、どーすんのコレ?
Mはとりあえず、車を路肩に移動しなければならないと言います。先日のスケボー事件から肩がイカれたわたしに向かって、車を押せというのです。深夜ですから大型トラックがビュンビュン通り過ぎていきます。しかもカーブの途中です。わたしは全身の力を出し切って車を押しに押しました。相手が意中の男性なら、もう完全にノックアウトってくらいの勢いでした。
そして路肩まで移動して、まるで天下を取ったようないきおいのわたしをご覧ください。
Mはタバコが大きらいで、先週も居酒屋でタバコを吸うわたしの顔面に向かってお扇子で散々煽っていたのですが、なんとそのMが「タバコ一本ちょーだい」というのです。
えええええええええーーーーーーーーーーーーっ!?
わたしはそれで、なにがどうなってるか完全に把握しました。ようするに一大事が起きているということです。緊急事態が大好きな私にとって、これは大爆笑に匹敵するものでした。大笑いするわたしの横で、いろんなところに連絡をし、テキパキとこの状態から打破しようとするMを横目にわたしはやっぱりこの状況を楽しんでいました。
トラックの運ちゃんと出会いがあるかもしれないよー!
雨じゃなくてよかったねー!
寒くなくてよかったねー!
路肩があってよかったねー!
と、一応慰めていたつもりでしたがすべてシカトされました。
しかし怖いもの知らず、いわゆる「無知」ってすごいですね。そもそもいつ死んでもいいと思っているわたしにとっては願ったりかなったりなので、心底楽しめた高速ガス欠事件でした。