「それを言っちゃあお終えぇよ」というコトバがある。捨て台詞やトドメ的なコトだろうか。わたし自身は、『下衆』と言われたときに終わりが見えたことがある。正確にはその正式な意味をググってからだったが、世界が真っ暗闇になったというよりも、すべてが解せた気がしてチャクラが開き、瞳孔もひらき、一気に眩暈がして倒れそうになった。わたしは納得したのだ。そのコトバに。だからこそのトドメである。自分でそう思わなければ何を言われたって知ったこっちゃない。そもそもブスの反対(男バージョン)がゲス、それくらい軽く考えていたわたしが愚かだったのだろう。その数年後にゲスの極み乙女をしゃあしゃあとカラオケで歌っているわたしもさらに浅はかかもしれないが。
家族内でもNGワードがある。年がら年中ワガママを言い甘えきっていると思われているわたしだが、オカンに絶対に言ってはいけないヒトコトを、こともあろうかサラリと言ってのけた。こっちがお終いになりそうな事件だった。
「だからー、ママは変人あつかいされてるからさ……」
と、ついクチをすべらしてしまったのだ。過剰に反応され、その後の処理が非常に大変であった。
「あーわかったわかった違う違う。『ちょっと面白い』のまちがいだよ」
とスグ変化球を投げてみたが、焼け石に水。
「わたしみたいにネクラでおとなしくて他人に気を使ってばっかりいる人間のどこが『面白い』のよっ!」
当時、3日間ウチに滞在したオカン。その間延々と、10分おきくらいに変人であることを否定し、この発言に対して抗議し、訂正を求め続けた。トイレまで追いかけられ、寝室にも入ってきて否定をかますオカン。わかった! わかったから! そのへんが変人なんですよ、と言える気力はもうわたしに残されていなかった。ほんとに狂いそうになった。
定義は様々なんだから別にいいじゃんかよっ!
と思ったが言えない自分が情けない……。ウチのいとこが夏休みの自由研究題材はうちのオカンにすると言いだしたことからして、
「あれ? わたしってちょっとひんまがっているのかしら」
とは思わないのだろうか。オカンが帰った後、キングオブザッパー繁ちゃん(オトンです)から電話があった。
「お前、あいつに何言ったんだよ。あの方狂ってるんだからさ、ヘタなこと言わないでくれよー」
そっかー。
変人じゃなくて狂人。確かに狂人に変人と言っちゃあマズイ。
もう二度と言いません。死んでも言わない。ぜったいに言わない。