金曜の夜、家に帰ったら財布がないコトに気づいた。
トートバッグの中に、あるはずの財布がないのだ。
わたしは先輩と晩ごはんを食べて、会計の際に財布をだした覚えがうすらぼんやりある。しかし毎回おごってもらっているので、実は支払う気がなかったのも事実。バチが当たった、と思った。考えられることは以下。
・支払う気もさほどないのに財布を取り出すという愚行をおかしたこと
・最近になって、グリーンからシルバーの長財布にかえてしまったこと
・DRUGSなどと書かれたふざけたバッグに入れておいたこと
・日頃の行いが悪い
行った店も思い出せない。
なんとかして検索して探し当てたがすでに店は閉店している。
こりゃ困ったぞ、と思った。
現金はたしか4万程度だからいいようなものの、免許証、保険証、そして銀行のカードには、ご丁寧にも暗証番号が書かれたポストイットまで貼ってあるのだ。「悪用してください」と懇願しているようなものだ。アホか。
しかしまだ「落とした」「盗まれた」とはどうしても思えない。
そこでわたしが出た行動とは、出雲大社のお守りの中身を開いて凝視してまたもとに戻すという異常行動だった。それでなぜか、心が落ち着いた。
だいたいイヤなことがあると眠くなるという奇病があるので、眠くて眠くて仕方ない。
「起きたらなにもかも夢でありますように……」と思いつつ、わたしは布団をかぶった。
起床。夢ではなかった。
件の店の開店時間を確認したら17:00とあった。
映画を観る約束があるので、とりあえず財布のことは忘れたフリをして準備していたら、人間とはおそろしい生物である。本当に忘れてしまっていた。
そして16:30、わたしは店に電話をした。やや待たされたあと、「申し訳ありません、ほかのスタッフにも確認しましたがそのような忘れ物は届いておりません」となぜか謝罪された。いよいよ絶望的になった。窮地に立たされたとはこういうことか。惜しいというよりも、この後の手続きのことを思うと頭がグルグルして気が滅入る。相対性理論の気になるあの娘、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるが脳内リフレイン。
そしてなぜか、わたしは友人と別れて自分の事務所に行った。藁にもすがる思い、というよりも、ここでなけりゃ、紛失届けだな、と決心を固めるためでもあった。
……ありました。
ピカーン! 銀色に輝くシルバーの財布!
あの夜、わたしはたしかにお店で財布を取り出したと思っていましたがそうではなかったようです。なんなの! この曖昧な脳みそ!
人間の記憶って、本当におそろしいしおぞましいし、都合がいいなあ~アッハッハ!
ではごきげんよう。