【な】なんにもしないからっ!
「何もしないから! なんにもしないから!」
と男に言われて家やホテルにノコノコ付いて行き、なんにもされなかったためしはないだろう。そこでナニゴトかされそうになり、
「なんにもしないって言ったクセにーっ!」
と、そこらへんにあるものをやたらめったらブン投げて、泣きじゃくりつつ帰るなんてシーンがこの世に存在するのかとさえ思う。むしろそこで、なんにもされなかったら頭にくるのが本来女性のしかるべき姿じゃないだろーか。
しかしこれを全うした男がいた。
「なんにもしないからー。髪なでたりして寝るだけだから」
と言われて、当時マッシュルームカットだった髪の毛を延々となでられるだけで一晩を明かした屈辱的な経験がある。元来、頭をなでられるのは大好きなので、そこまではよかったが、いつまでたってもなでている。
ーーん?んんーー? と思いながらも、いつ手を出してくるのか見計らっていたというのに、あろうことか、催眠術にかかったようについ寝入ってしまったのだった。気づいたら朝。マジか。髪フェチか。
それからというもの、ここぞという男が同じようなことを言ってきたら、
「なんにもしないなら行かなーい」
と言うようにしている。人生は学びの連続だ。ムダな駆け引きはいらない。(最近ではそんなことめったにないけれども!)
異なるバージョンに「なにもないけど」というセリフもある。
「なにもないけど遊びに来て」
と言われて、何もなかったためしがないのが世の常だ。テーブルには、手の込んだ料理が並んでいることが多い。だがこの場合は、本当に何もなかったとしても立腹するようなものでもないだろう。わたしが人をうちに招く時には
「黒豆茶と紅茶とコーヒー以外なにもないからね」
と必ず前置きしておく。
日本語には不可解な、多様性に満ちたコトバがたくさんあるけれども、『なに』というのもその筆頭かもしれない。
「なに?」は、自然な問いかけにもなるし、イントネーションを変え、凄味を加えただけで、一触即発にもなる。
「ナニしようか」も、発音によってかなり熱量が変わってくる。例えればこのナニが、針と同じ発音であったら、さてどうしようか何しましょうか、ということになるし、カニと同じであれば、とんでもない卑猥な言葉として相手に伝わってしまう。(関東圏に限るのかは知らない)
えーっと、混乱してきた。わたしは何が言いたかったんだろう。たぶん、一晩中頭をなでるのは良くない! ほどほどにして次のステップにいきましょーよ! ということだと思います。一生根に持たれますから。
本日のオススメ本