二、三日前にやたらと暑い日があった。
その日も同級生とはちみせで仕事していた。
ベランダでタバコ休憩中、
「今日あっついねーそいえばさー、わたしたち最悪なバイトしたことあるよね」
と思い出した。なぜ思い出したか。暑くて倒れそうになったバイトだったから。いわゆるフラッシュバックである。
もっともーっと暑い真夏、高校生だった我々はタンクトップに短パンといういでたちでバイトに向かった。
指定された地域をまわって、
「○月○日に廃品回収に来ますので、何時までに出してください。トイレットペーパーと交換しまーす」
と言って、承諾された家、一軒に付き200円もらえるという仕事だった。
楽勝〜めっちゃ儲かるぞ〜と意気込んでいたけれど、ご想像の通りどの家でも断られ、最終的にご想像を大幅に下回る一軒のみOKという結果に終わった。惨敗とかいうレベルじゃない。
真夏、日影ひとつない住宅街を周って汗だくで疲れ果て、金もなくてアイスやジュースひとつも買わなかったと思う。24時間しゃべりっぱなしと言われていた私たちもさすがに最後の方は沈黙が多かった。なんだったんだあれマジで。
たしかに荻窪の事務所に行き、地図を渡され、夕方仕事が終わってまた事務所に戻って地図を返却したのはまちがいない。けれども2人とも、その事務所や対応した(おそらくかなりうさんくさいであろう)人物をまるっきり思い出せない。解離性健忘じゃないけれど、記憶から抹消したんだろうか。
報酬200円は後日取りに行くことになっていたけど、200円(1人100円である)のために交通費を使って行くのもバカバカしいのでバックれたことだけは覚えている。バカだから手を出したバイトだけれど、それ以上のバカではなかったということだ。
寿司屋、中華料理屋でいっしょにバイトしたことのある私たちは、60才近くになってまたいっしょにはちみせで働いている。
しかしあれは辛かった。あんな辛くてバカげたバイトは本当にほかになかった。現実だったんだろうか、とも思う。思い出す時、なんとなく白昼夢っぽいのだ。でも2人だから夢じゃないんだよね。
きっと死ぬときに思い出す。はちみせで働いたことよりも、この200円バイトを走馬灯のように思い出すよね、 ということで意見は一致して、桜上水の上品な住宅街全土に聞こえるような音量で爆笑して仕事に戻りました。