【ひ】尾行
貧乏、火だるま、尾行の3択だったが、民主主義にのっとってTwitter上で多数決をとったところ、「尾行」が優勢だった。
昔、尾行というのだろうか、探偵大作戦を行ったことがある。
強行に結びつけて過去のレポートをここに掲載したい。
掲示板 インターネット日韓文化交流 - より
依頼者はA子、20代の主婦。
ダンナの浮気相手である『K』の写真を撮ることがわたしの任務。どうしても相手の顔が見たいという。
めんどくさいし、顔なんか見たってどうしようもないでしょーよ、と拒むわたしのアドバイスに対し、彼女は必殺技をだしてきた。
報酬はファミレスのえびフライ付きサーロインステーキ。
うん、行く。
『K』は千葉県幕張市でひとり暮らしをする、年齢不詳の謎の女性だ。
わかっているのはフルネーム、電話番号、そして住所だけ。当時はスマホもない時代。まずは家を探すだけでも一苦労だ。
黒いサングラス、黒いカウボーイハット、黒ずくめのいでたちに黒いジープ。タバコはマルボロ、ライターは100円。今日は大安。
万全の態勢でわたしは探偵をおっぱじめた。
「ちょっとその服やめてよ~」
と言いつつ車のトランクにあつかましく乗ってきた依頼人A子も一緒だ。
しかしバカA子は興奮してるのか、千葉に向かうまでに
「トイレ行きたい、もう我慢できない」
と何回も言うので何回も車をとめて何回もトイレに行き、最終的には何回も迷ったあげく幕張に到着。
『K』の住む地域は独特な雰囲気で、昼間だというのに薄暗く、やけに『K』の名字が多い土地だった。それにわたしは、人にジロジロ見られたり、後ろ指さされたり、言いがかりつけられるのには慣れているはずだが、それにしてもすれ違う人がみんなわたしたちに注目してゆく。別次元に放りだされたような気分だった。
私「ねえ、なんかみんなジロジロ見ると思わない?」
A子「そりゃあアンタがそんなに目立つカッコしてるからでしょ、サングラス外してよ、もう夕方なんだから……」
それにしても異様な空気のただようところだ。
やっと見つけた『K』の家、衝撃的だった。
屋根はトタン、壁は穴が開き、ドアらしいドアはなく、玄関の割れた窓ガラスはガムテープで補修している。2階もあるが窓という窓は全て木の雨戸が閉まっていて、それもコケが生えたり割れたりして、もう何年も開けた様子はない。
ココ、ホントに人間住んでるの?
私たちは半信半疑のまま焼鳥を食べながら張り込みを開始した。
しかし、人間は住んでいた。
日も暮れたころ、あの割れた窓ガラスの奥に明かりが灯ったのだ。
「え? いるんじゃん!」
焼き鳥の串に付いたタレをしゃぶるのにも飽きたので、私は強行作戦に出ることにした。
題して行商作戦。
車の中に、無人店で買ったトウモロコシが入っていた。そのトウモロコシを売りに来た行商のフリで、わたしが玄関まで『K』をおびきよせる。A子がその姿を見る、出来れば写真も撮る作戦。
A子「でもその服装……どう見ても行商って感じじゃないんだよね……」
私「いいんだよ、この際なんだってっ! アンタ見たいんでしょ? じゃあ自分でいく?」
A子「え、やだ……、うん、わかったよ」
そしてわたしは怪しいいでたちでトウモロコシを抱え、割れた窓ガラス(玄関)を叩いた。念のため、もしかして買ってくれたときの儲けの分も考えて1本150円で売る予定。(実際は100円だった)
「ごめんくださ~い! ごめんくださ~い!」
玄関はカギも付いていなかった。無理矢理開けようともしたが開かない。壁のアナから中の光が射しているものの、覗いたが中はみえない。
5分粘ったが、結局『K』は出てこなかった。
A子「もういいよ」
私「え、いいの?」
A子「うん……なんだかどうでもよくなっちゃった」
好きもきらいも、そして嫉妬心も、度を越すと痛い目に合う。
”どうでもいい”という感情は、軽んじて受けとられがちだが、生きていくうえにおいてとても重要な心理じゃないかと思うのだ。
いいね~、どうでもいい。いいわー、どうでもいい。
ただ、わたしにとってどうでもよくないことがひとつだけあった。
私「……でもステーキはおごってくれるんだよね?」
A子「え、うん、まあ」
私「えびフライ付きだよね?」
A子「……うん」
私「ビシソワーズスープもいいかな?」
A子「ダメッ!」
恋する女のココロは、とても複雑だ。ケチんぼ!
そしてもう1回、れっきとした尾行をしたことがある。
ターゲットは、息子のオンや、その友だち。彼にとってのいわゆる幼なじみである。
小学校1年生の頃、登校には40分で着くはずの学校から、帰りは3~4時間くらいかけて帰ってくるのだ。あまりにも遅いので、
「お友だちの家に寄ったりしてるの? 公園に行ってない?」
と聞いたことはあるが、寄っていないと言う。
そこで、なにを道草しているのか、近所のおかあさんたちとタッグを組んで尾行をしたのだった。
彼らは、まず、学校付近の整備されていない駐車場でひとしきりふざけたりして遊んだあと、田んぼを眺めて虫を取ったりしていた。それに飽きるとまた歩き、今度はランドセルを置いて、小川でザリガニに興じる。そしてまた田んぼやら畑やらで昆虫やカエルなどを採集したり、花を摘んだりしてトロトロ、ダラダラと帰って来るのだった。
近所の人たちと笑いをこらえながら尾行を続けたが、こりゃたしかにドロドロになって帰ってくるわけだ、と思った。そしてわたしは、絵に描いたような『道草』をしている彼らが、とことんうらやましかった。もっともーっと道草して、大きくな~れ! と思った。
今では立派に道を外れて生きているオンだが、まあ、それもいいかな、と思っている。思っていますね、わたしは。
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